コラム:上場(IPO)準備で経理部門がやるべきこと|一般企業との7つの違いと求められるタスクを解説

上場(IPO)準備で経理部門がやるべきこと|一般企業との7つの違いと求められるタスクを解説

企業が上場(IPO)を目指すとき、経理部門は日常業務から一転、会社の命運を左右する「プロジェクト推進部門」へと役割を大きく変えます。単なる帳簿付けという役割から、投資家に適正な情報を開示し、厳格な内部統制を構築する責任を負う立場へと変わるためです。

本記事では、一般企業(非上場)の経理業務と比較しながら、上場準備企業の経理に課される7つの決定的な違いを解説します。さらに、IPOの各フェーズ(N-3期〜N期)で経理が具体的に「何を」「いつ」実行すべきかのタスクを網羅的に紹介します。上場準備の経理業務の本質を理解し、上場準備を成功させる一助としてご活用ください。



上場準備企業と一般企業の経理業務7つの違い

上場準備企業と一般企業の経理業務7つの違い

非上場から上場準備へ移行すると、経理の役割は根本的に変わります。以下の7つの違いを理解することが、成功への第一歩です。

●会計の目的:税務会計から財務会計へ
●財務諸表の作成ルールの厳格化:適用される会計基準の違い
●決算の頻度・種類:年1回から四半期決算へ
●内部統制体制:J-SOX対応が必須に
●外部対応:税理士から監査法人へ
●過去の決算処理への対応:ショートレビューの発生
●求められる能力と業務の変化:ルーティンからプロジェクト推進へ

一般企業の経理が「守り」の役割を担うのに対し、上場準備企業の経理は「攻め」のプロジェクトを推進する役割を担っています。それぞれ順に見ていきましょう。

会計の目的:税務会計から財務会計へ

企業種別 会計の目的
上場準備企業 投資家保護と情報開示
一般企業(非上場) 税務申告と資金調達

上場準備企業と一般企業では、経理業務の「目的」が大きく異なります。上場準備企業は、株式公開(IPO)を一つのゴールとして準備を進めます。そのため、このフェーズでは投資判断に必要な正確で透明性の高い財務情報の提供が会計の目的です。これは、投資家保護と情報開示を主とする財務会計に基づいています。
一方、一般企業の場合は、主に税金の申告(税務会計)と、金融機関からの融資を円滑にするための資料作成が目的となります。上場準備においては、この目的意識の切り替えが、経理担当者に必要です。

財務諸表の作成ルールの厳格化:適用される会計基準の違い

企業種別 適用されるルール
上場準備企業 金融商品取引法や企業会計原則などに基づいた財務会計を適用
一般企業(非上場) 法人税法に基づいた税務会計が重視される

上場準備企業は、金融商品取引法や企業会計原則などに基づいた財務会計が適用されます。そのため、財務諸表の作成ルールが厳しくなります。特に「真実性の原則」に基づき、引当金など将来発生する可能性のある費用も適正に見積もって計上しなければなりません。
これに対し、一般企業の場合は、法人税法に基づいた税務会計が重視され、上場企業ほど厳密な会計基準の適用は求められません。したがって、これまでの会計処理の判断基準を税法から財務会計へシフトさせ、厳格で高度な会計処理を導入・実行していく必要があります。

決算の頻度・種類:年1回から四半期決算へ

企業種別 決算の頻度
上場準備企業 年次決算に加え、上場後は四半期決算(3ヶ月ごと)が必須となる
一般企業(非上場) 基本的に年次決算のみ

一般企業が基本的に年次決算のみであるのに対し、上場後は四半期決算(3ヶ月ごと)が必須です。これは、投資家に対して企業の業績や財政状態を継続的に、かつタイムリーに報告する義務が生じるためです。
具体的には、決算短信や有価証券報告書、四半期報告書など、投資家向けの法定開示書類の作成と提出をします。非上場企業では、法定開示書類は、会社法に基づく計算書類などに限定されます。一方、四半期決算は決算の早期化と正確性が常に求められ、経理部門の業務負荷を大幅に増大させます。

内部統制体制:J-SOX対応が必須に

企業種別 内部統制の義務
上場準備企業 上場後、金融商品取引法により内部統制報告制度(J-SOX)への対応が義務付けられている
一般企業(非上場) 法的な義務はない

上場後は、金融商品取引法により内部統制報告制度(J-SOX)への対応が義務付けられています。そのため、経理規程や業務マニュアルを詳細に文書化し、不正や誤りがないかのチェック体制を全社的に構築しなければなりません。また、その有効性を評価することまでを求められます。J-SOX対応は、経理部門が中心となって全社的な統制環境の整備をリードする、極めて重要なプロジェクトです。
一般企業の場合は、法的な義務がないため、経営管理上必要な最低限のルールのみで、文書化や評価の体制は未整備なことが多いのが実情です。業務が担当者ごとの属人的フローに依存しているケースも少なくありません。

外部対応:税理士から監査法人へ

企業種別 主な外部連携先
上場準備企業 主な外部連携先
一般企業(非上場) 税理士、金融機関

一般企業の場合は、税理士への税務申告依頼と金融機関への融資資料提出が主な外部対応です。それに対して上場準備企業は、主な外部連携先が税理士から監査法人、証券会社、証券取引所へと変わります。加えて、公認会計士による厳格な会計監査と、上場に必要な審査対応が必須となります。監査法人は、会計処理の適正性を厳しくチェックするため、正確な資料作成や説明能力が必要です。監査法人による指摘事項への対応は、経理部門にとって最も重要な業務の一つといえます。

過去の決算処理への対応:ショートレビューの発生

企業種別 過去の処理への対応
上場準備企業 ショートレビュー対応
一般企業(非上場) 基本的に発生しない

上場準備企業が直面する特有のタスクがショートレビュー対応です。これは、過去数年間(直前々期など)の決算内容を上場企業会計基準に照らして見直し・修正する作業です。税務会計基準で処理されていた過去の決算を、財務会計基準に合わせて修正します。一般企業の場合は、過去の会計処理を、上場基準に合わせて遡及的に見直す作業は基本的に発生しません。

求められる能力と業務の変化:ルーティンからプロジェクト推進へ

企業種別 業務の主な構成要素
上場準備企業 日常の定型業務
制度設計(内部統制、開示体制)
プロジェクト推進(監査対応、システム導入)
一般企業(非上場) 日常の仕訳、請求書処理、月次決算、税務申告などの定型業務

一般企業の経理業務は、日常の仕訳、請求書処理、月次決算、税務申告などの定型業務が主体です。それに加え、上場準備企業の経理は、制度設計(内部統制、開示体制)やプロジェクト推進(監査対応、システム導入)といった非定型業務が多くを占めるようになります。
これにより、求められる能力も変化します。専門的な会計知識に加え、制度を構築し、実行する行動力や、社内外との高いコミュニケーション能力などです。日常業務を正確かつ効率的に処理するスキルは当然ながら、加えて変化と構築に対応できる能力とマインドセットが求められます。

上場準備の経理タスクをN-3期からN期までフェーズ別に分類

上場準備の経理タスクをN-3期からN期までフェーズ別に分類

上場準備は、一般的にN-3期(申請期の3期前)からN期(申請期)まで、長期にわたるプロジェクトです。経理部門のタスクを各期ごとに分類してみました。それが以下のとおりです。

●N-3期(準備の基盤作り)
●N-2期(監査対応と体制の本格運用)
●N-1期(内部統制の評価と開示準備)
●N期(申請書類作成と審査対応)
●すべての期間で必須となるタスク

また、特定のフェーズに限定されず、N-3期から上場後まで継続的に実施されるタスクも紹介します。

N-3期(準備の基盤作り)

上場申請の3期前にあたるN-3期は、会計の基盤整備と課題特定を行うフェーズです。ここで基盤をしっかりと固めておけば、その後の監査がスムーズに進みます。まず、ショートレビューへの対応として、過去会計処理の是正や、上場基準に合わない会計処理の特定と修正を行います。加えて以下のようなタスクにも取りかかりましょう。

●経理規程・業務マニュアルの作成に着手
●経理処理の基本ルールと業務フローを策定・文書化
●経理管理体制の強化のため月次決算の早期着手
●予算実績管理の導入準備

必要に応じたシステム導入もこの時期に検討・選定し、上場基準に対応可能な会計システム・基幹システムの導入を開始します。

N-2期(監査対応と体制の本格運用)

上場申請の2期前にあたるN-2期は、監査対応の開始と内部統制の構築を本格化させるフェーズです。経理部門にとって最も負荷の高い期間の一つといえます。N-2期から監査法人との契約締結を行い、会計監査がスタートします。そのためのタスクが以下のとおりです。

●上場企業会計基準の適用
●税務会計から財務会計への本格移行が完了
●引当金や税効果会計など高度な処理を導入・実行
●連結決算体制の構築に向けたグループ内連携体制の整備

J-SOX法対応として、内部統制の整備を進め、業務フローの文書化(フローチャート、業務記述書など)を集中的に実施していきます。

N-1期(内部統制の評価と開示準備)

上場申請の直前期にあたるN-1期は、内部統制の評価と開示準備の実行に焦点を当てるフェーズです。この期の決算が、上場申請における最も重要な実績となるため、正確な業務遂行が求められます。また、J-SOX法対応が大きな柱になります。

●内部統制の有効性評価と改善
●N-1期の会計監査対応を実施
●監査法人から指摘された事項の修正
●N-1期実績に基づいた事業セグメント別の情報集計

また、有価証券報告書などの開示書類のドラフト作成とデータ精査を進めていく時期です。

N期(申請書類作成と審査対応)

上場申請期にあたるN期は、最終調整と審査対応を行う、まさに集大成のフェーズです。経理部門は、正確なデータを基に、審査を乗り越えるためのサポートします。主なタスクは以下のとおりです。

●開示書類の作成と提出(決算短信、四半期報告書、有価証券報告書)
●証券会社・証券取引所の審査対応(審査資料の提供、経理面に関する質疑応答)
●適時開示体制の整備

上場への準備を完了させるため、最終データの精査を迅速かつ正確に進めることが重要です。

すべての期間で必須となるタスク

上場準備のすべての期間を通じて、継続的に実施される重要なタスクも存在します。これらは特定のフェーズに限定されず、N-3期から上場後まで継続的に経理部門が負う業務です。

●棚卸資産・固定資産の管理規程の策定と運用
●継続的に発生する監査資料の作成・提出への対応
●データの入力・承認・変更・バックアップに関するIT統制を構築

財務報告の適正性に直結するため、厳格なルールと運用体制が必要です。そのために、導入したITシステムの継続的な運用と定着も必須タスクです。

まとめ

まとめ

本記事では、上場企業と非上場企業の経理部門における7つの違いと、N-3期からN期にわたる具体的な経理タスクを解説しました。上場準備において経理部門の役割は、単なる日常業務の処理者から、内部統制と情報開示の基盤を構築するプロジェクト推進部門へと変化します。厳格な上場審査を乗り越えるためには、財務諸表の適正性はもちろんのこと、企業の健全性を示す内部統制の有効性が重要です。

経理部門は財務報告の適正化に注力しがちですが、上場審査では、人件費の基礎となる「労働時間の正確性」が最も厳しくチェックされる最重要項目の一つです。従業員の勤務実態と自己申告に大きな乖離がないかを、客観的なPCログデータなどで立証できる体制が強く求められます。この体制の不備が、審査の遅延や、最悪の場合、申請の取り下げに繋がるケースも少なくありません。
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