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企業が従業員に“有給休暇の取得”を促すための工夫とは?

「より働きやすい日本社会への変革」を目的とした“働き方改革関連法”。この働き方改革に伴い、有給休暇取得制度も大きく変化がありました。 その内容とは、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、「年5日以上の有給休暇を取得させること」が義務付けられた、というものです。
ここでは、有給休暇取得の義務化についての概要や、従業員の有給休暇取得を促すためにおこなう工夫などについて解説します。


「有給休暇取得の義務化」とは?

有給休暇は労働基準法により勤務期間等の条件を満たした労働者に付与されるもので、取得することは労働者の権利として保障されています。これは正規雇用(正社員)のみならず、パートやアルバイト・派遣といった非正規雇用の労働者についても対象となっています。
働き方改革以前の有給休暇の取得方法は、主に「労働者の自己申告」としていた企業がほとんどで、「職場の環境や同僚等へ気兼ねして取得できない」「休みを取ることで昇進査定に影響するのが怖い」といったケースも多かったのです。

今回の改正では、企業に対し「年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、聴取をおこなった上で時期を指定し、年5日間の有給休暇を取得させる義務がある」と法律が改正されたのです。つまり有給休暇が「取ってもいい」ものから「必ず取得しなければならない」ものへと変更されたのです。
また、改正後の変更点には「雇用者が年次有給休暇管理台帳によって取得状況を把握するとともに、3年間保管しなければならない」という決まりも追加されました。

年次有給休暇管理台帳に関しては保存義務違反の罰則がないものの、従業員の有休取得日数が不足した場合は刑事罰となるため、雇用者に対し30万円以下の罰金が課せられます。この処罰は事業主だけではなく上司を対象とする場合もあるため、注意が必要です。
処罰を受けた場合の雇用者に対するマイナスイメージは計り知れないものですし、ひいては会社としての社会的信用を失いかねません。そのため雇用者は、従業員が有休休暇をしっかりと取れるように対策をおこなう必要があるのです。

有給休暇取得を促すための工夫にはどのようなものがある?

改正後多くの企業では、従業員へ有給休暇を取得させるためにさまざまな工夫をおこなっています。

基準日を設け、年次有給休暇取得計画表を作成する

労働者が年5日の有給休暇を取得する際、連続で取得するかバラバラに取得するかは自由に選択することができます。ただ、他の従業員と休暇希望が重なると、業務に支障をきたしてしまう可能性もあるでしょう。対象者がより確実に有休を取得するためには、計画を立ててもらうことが大切です。
四半期や半年ごとなど、期間を決めて作成した計画表へ各自で有休取得希望日を指定し、業務の進行状況や偏りなどを考慮しながら調整していくことで、有休を消化しながらも業務をスムーズに進めることができるようになります。

雇用者から時期指定をする

労働者が多忙で年次有給休暇の予定を立てることが難しい場合や、過去の年次有給休暇取得実績において取得日数が少ない場合は、雇用者が時期を指定して有給休暇の取得日を指定することができます。
ただし、一方的に時期を指定するのではなく、必ず希望日等を聴取した上で、労働者の希望を尊重するようにしましょう。

計画的付与制度の導入

計画的付与制度とは、労働者がためらいを感じないで有給休暇を取得できるよう、1987年に設けられた制度です。
この制度は付与された年次有給休暇のうち、5日を超えた部分が対象となります。実施の際には労働者代表・雇用者のどちらかが一方的に決めることはできず、お互いに協定を締結する必要があります。
計画的付与制度には以下のような3つの方式がありますが、事業内容・業種などに合わせた方式を選択しましょう。

・一斉付与
 全従業員が同一の日に有給休暇を取得します。
 工場や機械作業の発生する現場などで、全員が一斉に休暇を取ることで効率が良くなる場合にこの方式が取られることが多いです。

・個別付与
 計画的付与を個人別に導入するのが個別付与方式です。
 従業員が一斉に休むことが難しい職場などで採用されるケースが多く、年度スタート時に取得したい日を聴取し、雇用者によって調整をおこなった上で各々の取得日を決定します。

・交代制付与
 班や部署など、複数人のグループ別に交代で有給休暇を取得する方式です。
 個別付与と同じく、全員が一斉に休みを取れない職場(サービス業など)でおこなわれています。

働き方や業務の内容・システムの見直しをおこなう

有給休暇の取得方法そのものの他に、労働者が“働きやすく休みやすい”職場環境づくりも重要です。
子育てや介護、病気などのさまざまな生活環境の変化に対応するには、「多彩な働き方の選択肢」を増やすことが求められます。
男女を問わない育児休暇制度や時短勤務やフレックスタイム制をはじめ、裁量労働やリモートワークなど柔軟な働き方ができるようになれば、業務の調整がしやすくなるなどのメリットがあるでしょう。

有給休暇の取得が義務化された現在は、従業員の休暇が増える一方、今までと同じ働き方では毎日の残業が増えてしまい、かえって業務の負担が大きくなる恐れがあります。
そのため、企業としては「業務の生産性や業務効率の仕組みについて変更をおこなう」「大型のプロジェクトなど、一時期・一部の部署や人物に業務が偏らないよう考慮する」「夜中の稼働が必要な企業では、働き方改革に取り組んでいることを関連企業へ周知し、共に改善を図る」といった抜本的な対策をおこなう必要があるのです。

従業員が年5日以上・確実に有給休暇を取得できるような対策を

日本は世界の中でも有給消化率が最下位の国です。この不名誉を払拭するには、社会全体で有給休暇の取得を促し、より一層取得できるものに変えていく必要があります。

専門的な知識を必要とする職業や従業員数が少ない中小企業では、有給休暇の取得が難しく思われがちです。しかし、しっかりと休んでリラックスすることで従業員のパフォーマンスも改善されます。その結果「生産性」や「業務効率」が改善されれば、企業にとっても大きな恩恵が受けられるのではないでしょうか?
さらに現代では、少子高齢化が進んでいて、子育て・介護の「ダブルケア」が余儀なくされるケースも増えつつあります。これらに該当する人であっても、罪悪感をおぼえずに休めるように変わっていくことで、もっと働きやすくなりますし、離職や人材の流出防止にもなるでしょう。

企業の「ブラック化」や慢性的な人材不足を防ぐためにも、積極的に有給消化を促し、“労働者が休みやすい企業づくり”を心掛けていきましょう。

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