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現職社労士が読み解く 導入でどう変わる? 週休3日制

「週休3日制」はイノベーションの促進や人材不足の解消というメリットがあります。
ただし同じ週休3日制でも週の労働時間は変わらないタイプや週の労働時間が減少した分給与を減らすパターンもあり、
「想像と違っていた」と従業員に印象づけてしまう可能性も。週休3日制を導入する際は制度の仕組みを理解し、従業員の求める週休3日制を検討する必要があります。

影山貴敏(かげやま たかとし)/ 特定社会保険労務士
1978年岡山市生まれ。NPO法人職員、コミュニティーFMのパーソナリティーの他、中小企業や行政機関での勤務経験を持つ。
2015年から社会保険労務士として開業。ラジオで培った分かりやすい話術を生かしたYouTube動画や各種セミナーは、
労働者・使用者双方から好評を博している。


これまでの休日増加の歴史

一口に週休3日制と言っても、目的によっていくつかのタイプがありますが、共通しているのは「労働日数を減らし、休日を週3日設ける制度」ということです。
いま、働く人のワークライフバランスへの配慮の一つの形として注目されています。
まずは、従来の週休2日制が導入された時期にさかのぼって、これまでの休日増加の歴史を確認しておきましょう。

労働基準法が制定された昭和22年当初、週の法定労働時間は「48時間」と定められていました。
1日8時間、週48時間、法定休日は週1日ですから、週6日労働が当然だったわけです。
しかし、制定から40年経った昭和62年に施行された改正で「週40時間」への段階的短縮が始まり、平成5年施行の改正で週40時間制が本格実施されると、各企業は何らかの形で週休2日制を導入せざるを得なくなったのです。
完全週休2日の場合もあれば、変形労働時間制によって隔週週休2日の場合もあるなど、週40時間制への対応はいくつかの方法によって行われました。

ちなみに、同じころ学校週5日制も始まっていて、平成4年9月から月1回、平成7年4月からは月2回、平成14年度からは完全実施されています。
平成ひとケタのころ、筆者は中高生でしたが、同世代のみなさんの中には、親は仕事が休みで家にいるのに自分は登校していたという記憶をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

このように、週48時間制から週40時間制へと移行した時期は、昭和から平成へと元号が変わり、バブル崩壊で経済は大不況へという時期でした。
これまでの働き方を見直したいという機運の高まりは、平成から令和へと元号が変わったいまと重なるところが多いような気がします。

なぜ「週休3日制」が注目されているのか

法改正への対応という事情で導入された「週休2日制」とは違い、「週休3日制」はワークライフバランスを重視する企業が、働き方の選択肢として従業員に提示するものです。
これは、多様な働き方を認める企業風土を示すものと言うことができます。そして、人口減少に転じている日本において、確実にやってくる労働力不足への備えという側面もあります。

「週休3日制」のメリット

「週休3日制」を導入すると、次のようなメリットがあると考えられています。

・イノベーションが促進される
さきほど、週休2日制と学校週5日制の導入時期を振り返りましたが、日本語に「家族サービス」という言葉があるように、当時新たに生まれた休日はほとんど「家族と過ごす時間」に使われたと言ってよいでしょう。
一方で、週休3日制で新たに生まれる休日は、労働者がいつもの業務以外の何かに取り組む時間に使われるようになります。
職場と家庭の往復だけでは得られない経験をしたり、社外の人間とのコミュニケーションが活発になったりすることで、前例にとらわれない柔軟で新たなアイデアが生まれるなど、本業へのさまざまなプラスの影響が期待できます。

・人材不足の解消につながる
求人検索サイトを見ると、「年間休日120日以上」という条件が、「土日祝休み」や「完全週休2日制」と並んで「人気のこだわり条件」とされているのをご存じでしょうか。
正社員求人はもはや年間休日120日未満では見向きもされないと言われています。今後さらに労働力人口の減少によって、優秀な人材の獲得競争が激しくなります。福利厚生制度の充実した企業に魅力を感じる若い人が増えています。
完全週休3日制とはいかなくても、休日を増やすことは実質的な昇給であり、人材不足解消の有効な一手です。

・育児・介護休業法を上回った配慮ができる
育児や介護のために労働者が仕事を辞めなくてすむように、さまざまな制度を設けることを企業に義務付けているのが育児・介護休業法です。
しかし、法律はあくまでも最低限の義務を課しているにすぎず、各企業は独自に法を上回る制度を設けることで、育児離職、介護離職を減らすことが可能です。
また、育介法に基づく諸制度は育児や介護という前提条件が必要ですが、そのような条件を付けず、希望すればだれもが転換できる短時間勤務制度があれば、育児や介護以外の理由で労働時間をセーブしたいというニーズに応えることができ、従業員の定着につながります。

・コストを削減できる
従業員の出勤日数を減らすことで、工場やオフィスの光熱費を抑えることができます。また、総労働時間が減れば、割増賃金の削減も可能です。

・感染症のリスクを減らす
休日が増えることで、従業員同士の接触機会を減らすことができ、それが従業員の感染リスクを低減することにつながります。少なくとも今後数年は、リアルで対面する機会を極力少なくする努力が求められることになりそうです。
コロナ禍以前の季節性インフルエンザの感染状況を考えると、「新しい生活様式」は一定の成果を上げていると思います。

「週休3日制」のデメリット

反対にデメリットとしては、次のようなものがあります。

・業務をこれまでどおりこなせない
実労働時間を減らす場合、これまでどおりの業務をこなすことができなくなるかもしれません。時間外労働が常態化しているような職場であればその影響はより顕著でしょう。
一人ひとりの労働時間が減った分、増員するなどの対策が必要になってくるでしょう。

・社内のコミュニケーションの量が減る
対面の機会が減ることで、社内のコミュニケーションの量が減ります。同僚間、上司と部下の間、部署間のやりとりなど、社内のさまざまなコミュニケーションにおいて、コミュニケーションを意図的に増やすしくみ作りが必要になってくるでしょう。
チャットツールやクラウド型の経費精算システム、人事管理システムなどを導入するといった対策が考えられます。

・給与が減る
実労働時間を減らす場合、ノーワークノーペイの原則に従って基本給を減額することは、労使双方の合意があれば可能です。
希望する従業員に適用するだけの制度であれば、基本給の減額は受け入れられやすいと思いますが、全社員に適用するとなれば、就業規則の不利益変更となり、不利益の程度によっては裁判で無効とされる可能性があります。
変更の合理性、つまり社員にとって休日が増えるメリットと釣り合う程度の給与の減額はどの程度のものなのかを慎重に検討する必要があります。
さらに、説明会の開催、個別の同意を得るといった手続きが求められます。

・制度設計の時間が必要
週休3日制の導入にあたっては、制度設計のために相応の時間がかかることを考慮しておきましょう。
勤怠管理、給与計算が複雑になるため、システムを導入するなど、担当部署の負担増への対策が欠かせません。

・ビジネス機会の損失
製造業を中心に、正社員の休日がそのまま会社の休日であり、それが当たり前という会社はまだまだたくさんあります。
休日が少ない会社の経営者に「休日を増やせないか検討してみてはどうか」と尋ねると、必ずと言っていいほど「取引先の稼働日に休むわけにはいかない」という返事が返ってきます。果たして本当にそうでしょうか。
シフト制で休日を分散取得し、オフィスの常駐体制を維持していれば、取引先の稼働日でもビジネスチャンスを逃すことはほとんどないでしょう。

「週休3日制」を検討するうえでおさえておきたいポイント

「週休3日制」は次の3つのパターンにまとめられます。

1日10時間労働×週4日勤務
1か月単位の変形労働時間制により、週休3日と週40時間労働を両立させるパターンです。
週5日勤務と所定労働時間が同じなので、週休2日から週休3日へと移行するときに給与を増減させる必要がないことと、時間外割増賃金の計算がしやすいという利点があります。

1日8時間労働×週4日勤務で給与を減らす
週の所定労働日が5日から4日に減るので、基本給を5分の4に減額するパターンです。
育児短時間勤務で1日の労働時間を6時間に短縮した場合、基本給を8分の6に減額するのと考え方は同じです。ただし、前述のとおり、希望しない者にも適用する場合には注意が必要です。

1日8時間労働×週4日勤務で給与を維持
労働時間を減らしても給与を維持するということは、事実上の昇給です。
週休2日の制度を並行して設ける場合には、不公平が生じないよう、他の人事制度との整合性を持たせる必要があります。


対象者
条件を満たした者だけに認める特別な制度にするのか、希望すればだれでも選択できる制度にするのか、それとも全社員を対象にするのかを考えます。
いずれにしても、従業員への丁寧な説明と意見の聴取が必要です。

給与体系
所定労働時間を減らす場合、パート有期法も絡んできます。所定労働時間を減らした従業員が従前と同じ職務内容で働く場合は、減らした労働時間分以上の給与の減額などは差別的取扱いとして禁止されています。

利用期間をどうするか
育児・介護休業法に基づく短時間勤務制度などは、制度の利用を申請する時点で、制度の利用を終了する期日を明記することが決められています。
週休3日制についても、選択制として導入するのであれば、ある程度まとまった期間を単位として適用するのが労務管理の観点から望ましいと思います。

副業
休日が増えれば、副業を始めたいと考える従業員は増えるでしょう。スキル向上やキャリア形成につながる副業であれば、自社にもプラスになります。
競業避止義務を明確にした上で、許可制により副業を認めるのが適当ではないでしょうか。

まとめ

どんな人事制度でも同じですが、既存の制度では解決できない問題を解決するために必要な制度を導入するという基本スタンスが大切です。
現状分析をしっかり行って、適切な解決策を構築しましょう。

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