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働き方改革法による上限規制強化への対応

Q 「働き方改革関連法が成立しました。残業規制が強化されるそうですが、会社ではどのような対応が必要でしょうか?」

A 働き方改革関連法により、時間外労働の上限について、月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(休日含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)を限度にすることが法律に定められ、この限度時間を超える36協定を締結することができなくなりました。会社は、新しいルールに沿って、36協定を見直し、改正後は新様式での届出が必要です。また、勤怠管理システムについても、確認する必要があるでしょう。


1.働き方改革法とは

働き方改革関連法が、本年7月6日に公布されました。同法は、改正労働基準法、改正安全衛生法など8つの法律からなります。8月には厚生労働省から省令や指針が示され、36協定の新様式なども明らかになっています。同法のうち、話題になっていた高度プロフェッショナル制度は、職種が限定され(アナリスト等)、年収要件(1075万円の予想)もありますので、導入できるのは一部の企業に限られます。また、高プロを導入するすべての事業場に対して、労働基準監督署が立入調査することが附帯決議で盛り込まれたので、当面導入が進まない可能性があります。
一方、残業規制が厳しくなり、36協定の様式なども変更され、多くの企業で見直しや対応が必要になります。施行日は、大企業では来年4月から、中小企業においても再来年4月からですので、いち早く対応が必要です。本稿ではこの点を中心にご説明します。

2.36協定とは

法定労働時間は、休憩時間を除き、原則として1週40時間、1日8時間とされ、これを超えて労働させてはならないと、労働基準法で定められています。また、法定休日は、毎週1回の休日または4週間を通じて4日の休日を与えることが義務付けられています。
このように法定労働時間を超えて労働させたり、法定休日に労働させることは、原則として禁止されていますが、これを可能にする方法があります。それが、「時間外・休日労働に関する協定」の締結・届出になります。労働基準法36条に規定されていることから、この協定を36(サブロク)協定と呼んだりします。
具体的には、「その事業場の労働者の過半数を組織する労働組合」またはそのような組合がない場合には「その事業場の労働者の過半数を代表する者」と、使用者との間で一定事項を協定します。この36協定を労働基準監督署に届け出れば、その有効期間中、協定内容に従って時間外労働や休日労働をさせても違法となりません。
36協定は、原則として①1日、②1ヵ月、③1年間ごとの時間外労働の上限を定めます。36協定に定められる上限は、1ヵ月については45時間、1年については360時間などと、限度時間の規制があります。

3.罰則付きの残業規制

これまで、時間外労働の限度時間は、限度基準告示として定められていましたが、法律に格上げされ罰則による強制力をもたせることになりました。これまでは限度基準告示を超える時間外労働の限度時間を定めても罰則の適用はなく、締結した限度時間を超えた場合に罰則が適用されました。今後は、限度基準を超える時間外労働の限度時間を定めると違法となります。従前の制度が出口規制などと呼ばれるのに対して、新制度は入口規制などと呼ばれます。
また、従来、労使の合意があれば上限なく時間外労働ができるため青天井と非難されていた特別条項についても、上限が設定されることとなりました。そのため、36協定について、次のルールに沿った見直しが必要になります。

  • ① 原則として、限度時間は月45時間、年間360時間
  • ② 特別条項を締結する場合でも、年間上限720時間
  • ③ 特別条項を締結する場合でも、法定休日労働を含み、
      単月で100時間未満、2カ月ないし6カ月平均で月80時間以内
  • ④ 限度時間を超えることができるのは1年間で6回(6カ月まで)
  • ※1年単位の変形労働時間制の場合、別途基準有り

(1)法定休日労働を含むかどうか

見直しにあたり、注意点があります。①、②及び④については、従来の36協定同様、法定休日労働を含みません。一方、③については、法定休日労働を含みます。従って、36協定に関して、「法定休日抜き」及び「法定休日込み」の二重管理をする必要が出てきます。

(2)最大どれ位まで時間外労働させることができるのか

特別条項が締結できる期間は、年間6か月までですので、最大限の時間外労働時間は以下のように計算されます。
・法律による上限(原則)      45時間×6カ月=270
・特別条項締結期間の上限      720-270=450
・特別条項締結期間の上限(月平均) 450÷6=75
つまり、特別条項を締結すれば、6カ月間は月平均75時間の協定を結ぶことができると言えます。例えば、4月~6月は80時間、7月~9月は70時間、10月~3月は45時間を月の上限として協定するといった具合です。
しかし、(1)の法定休日労働についてのチェックが必要になります。上の例で行くと、4月~9月までの間、法定休日労働が発生しなければ良いですが、法定休日労働が発生する場合、これも計算に入れる必要があります。
以上のように、「法定休日抜き」及び「法定休日込み」の二重管理は、非常に煩雑です。これを避ける一つの方法は、法定休日労働をさせないことです。法定休日は、1週1休(変形制の場合4週4休)ですから、原則の週休制の場合、1週1休を確保することです。どうしても土日両方の出勤が必要な場合は、同一週内で振替休日を確保します。
もう一つは、できるだけ残業を減らすことです。例えば、1日2時間程度の時間外労働であれば、月45時間の上限に収まりやすくなりますので、このような目標を掲げ、残業削減対策、業務効率化を図ると良いと考えます。

4 法定休日の利用について

上記の通り、③だけは法定休日労働が含まれますが、それ以外の規制には法定休日労働がカウントされません。裏を返せば、法定休日労働を含んで毎月80時間まで、年間合計80時間×12カ月=960時間まで、働かせることができるという枠組みになっています。この点、働きすぎ防止という立法趣旨にもかかわらず、抜け道を残すと疑問視されてきた部分です。
しかし、どうしても時間外労働だけでは上限規制に収まらないという企業は別として、安易に法定休日労働を利用するという考えは避けるべきでしょう。というのも、「36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針」(平37.9.7厚労告323号)においては、休日労働の日数及び時間数をできる限り少なくするよう努めなければならないと定められています。また、過労死との関連においては、時間外・休日労働時間が月100時間又は2~6カ月平均で80時間を超える場合は、過労死が認められる可能性が高まるからです。さらに、最近の新卒者の就職意識調査における行きたくない会社についての調査結果では、「暗い雰囲気の会社」(33.9%)がトップ、「休日・休暇のとれない会社」(25.7%)が3番目に上がっており、若者がワークライフバランスを重視する傾向にあるため、休日労働の多い会社は採用活動にも響くと言えます(2018年卒マイナビ大学生就職意識調査)。

5 勤怠管理システムの構築

改正により、勤怠管理システムも見直しが必要になると思われます。特に、時間外労働や休日労働が多い企業は、手計算での管理は難しく、勤怠管理システムでの管理が必須になると思われます。
まず、上述のように、「法定休日抜き」及び「法定休日込み」の二重管理ができるように、勤怠管理システムについても対応が必要になります。
さらには、2~6カ月平均で月80時間以内というチェック機能も必要になり、どこを区切っても平均80時間以内に収めなければなりません。次の表は9月の時間外労働時間について、2~6カ月平均で80時間を超えていないか検証した例です。例えば、10月に85時間の時間外労働をしてしまっては遅いので、あらかじめ10月に何時間の枠があるのか確認できる機能も必要になるかもしれません。

4月5月6月7月8月9月10月
2時間78時間70時間62時間85時間75時間例えば、
 80時間→○
 85時間→×
※85時間だと8,9,10月平均で
80時間を超える


平均80時間→○
平均74時間→○
平均73時間→○
平均74時間→○
平均62時間→○
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