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裁量労働制の改正

先ずはQAを題材に確認していきましょう。

Q.当社には、専門業務型裁量労働制を適用している労働者がいます。来年4月から改正が行われると聞きましたが、どのような点が改正されるのでしょうか。

A.令和6年4月1日以降、専門業務型裁量労働制の導入や継続をする場合、労使協定に追加事項を入れ込むことが必要になりました。
  例えば、労働者の同意を得ることや、同意をしなかった場合に不利益取り扱いをしないことなどを労使協定に定め、
  専門業務型裁量労働制を継続導入する事業場では令和6年3月末までに協定届の届出しなければなりません。
  併せて、労使協定に沿って労働者の同意を得ておく必要もあります。


1.裁量労働制の改正【令和6年4月1日】

 厚生労働省の労働政策審議会(労働条件分科会)は、「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)」(令和4年12月27日労働条件分科会)を公表しました。 これに基づき、裁量労働制の他、労働条件明示事項と有期労働契約の無期転換ルール等について、省令や告示の改正が行われ、令和6年4月1日に施行されます。
 以下、比較的導入事例の多い専門業務型裁量労働制のしくみとその改正点について、注目点を取り上げます。

2.裁量労働制とは

 裁量労働のみなし労働時間制は、経済構造の変化に伴い、専門性の高い業務や使用者の具体的な指示の下に労働しない就業形態が増えてきたことから、労働者の自律的、主体的で創造的な能力の発揮に寄与するものとして制度化されました。
 昭和62年の導入当初は、研究開発やシステムエンジニアなどの専門職にのみの適用でしたが、平成11年の改正により事業の運営に関する企画・立案・調査・分析の業務を行う一定範囲のホワイトカラーにも適用することが可能になりました。
 よって、裁量労働制には、専門業務型裁量労働制(以下、専門型)と企画業務型裁量労働制(以下、企画型)があります。

3.裁量労働従事者の勤務管理

 労使協定等に定めるみなし時間数が法定労働時間を超える場合は、36協定の締結・届出と時間外割増賃金の支払いが必要となります。
 法定休日労働の場合には、休日労働の協定・届出と休日割増賃金の支払いが、所定休日労働の場合は、その所定休日労働により1週間の法定労働時間を超えるなら、その超える時間につき、時間外割増賃金を支払います。深夜労働の場合には深夜割増賃金が必要となります。
 労働者の健康確保の観点から、休日や深夜労働については、事前に許可を得る制度にしておくとよいでしょう。

 また、休憩、年次有給休暇は労働基準法の定め通り与えなければなりません。
 裁量労働制のみなし規定は、対象業務に就かせたときに適用されます(労基38の3①、38の4①)。
 従って、欠勤等により対象業務に従事しなかったり、他の一般事務等の対象業務以外の業務に従事したときは、みなし規定が適用されず、就業規則による一般労働者と同様の労働時間等の取り扱いをすることになります。
 みなし労働時間制が適用される労働者の労働時間管理について厚生労働省は、 「本ガイドラインが適用されない労働者についても、健康確保を図る必要があることから、使用者において適正な労働時間管理を行う責務があること。」としています(「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」平29年1月20日作成)。
 裁量労働者は、労働時間の配分等や業務遂行の手段等について、自己裁量を有しますが、何でも自分勝手に行ってよいということではなく、当然のことながら労働義務や出勤義務があります。さらに、職場秩序、服務規律や安全衛生規定を遵守し、会社が定めた規則等に従わなければなりません。

 以上から、会社は出退勤の確認のため出勤簿の記録等により勤務管理を行い、裁量労働者は会社が定める勤務管理には従う必要があると考えます。
 また、深夜勤務については、その回数と時間数を自己申告させる方法などがあります。

4.「専門業務型裁量労働制

 デザイナーやシステムエンジニア等、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務が対象です。
 具体的には、厚生労働省令等に定められた19業務の中から、対象となる業務を労使で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使協定で定める時間労働したものとみなす制度です。
 具体的な業務については5の(3)をご確認下さい。
 制度を導入するには、労使協定において以下の事項を定め、労働基準監督署長へ届け出る必要があります。

制度の対象とする業務
対象となる業務遂行の手段や方法、時間配分等に関し労働者に具体的な指示をしないこと
労働時間としてみなす時間
対象となる労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容
対象となる労働者からの苦情の処理のため実施する措置の具体的内容
協定の有効期間(3年以内とすることが望ましい。)
④及び⑤に関し労働者ごとに講じた措置の記録を協定の有効期間及びその期間満了後3年間保存すること

5.裁量労働制に関する改正

(1)裁量労働制の導入・継続に関する新たな手続
 令和6年4月1日以降、新たに、又は継続して裁量労働制を導入するためには、「労使協定」(専門型の場合)または「労使委員会の運営規程」(企画型の場合)に、追加事項を入れ込むことが必要になりました。
 具体的には、裁量労働制を導入する全ての事業場で、必ず、以下の追加をした上で、労働基準監督署に協定届・決議届の届出を行う必要があります。
 裁量労働制を継続導入する事業場では令和6年3月末までに(新たに導入・適用の場合は導入・適用するまでに)、協定届・決議届の届出しなければなりません。

専門業務型裁量労働制の労使協定に下記①を追加すること
企画業務型裁量労働制の労使委員会の運営規程に下記②③④を追加後、決議に下記①②を追加すること
本人同意を得る・同意の撤回の手続きを定める【専門型】【企画型】
労使委員会に賃金・評価制度を説明する【企画型】
労使委員会は制度の実施状況の把握と運用改善を行う【企画型】
労使委員会は6か月以内ごとに1回開催する【企画型】
定期報告の頻度が変わります【企画型】

(2)専門業務型裁量労働制の導入・継続には「労働者の同意」が必要となる
 ここでは、専門型について説明いたします。労働者の同意を得ることや、同意をしなかった場合に不利益取り扱いをしないことを労使協定に定めます。
 また、同意の撤回の手続きと、同意とその撤回に関する記録を保存することを労使協定に定める必要があります。
 専門型の場合、改正前は同意が不要であったため、これまで専門型を適用していた企業では同意をとっていないことが一般的です。
 しかし、改正後は労使協定に同意を得ることが入るため、改正前から専門型を適用している企業においても、新たに同意を得る必要があります(厚生労働省労働基準局労働条件政策課へ確認)。
 また、企画型は労働者の同意を得ることが要件でしたが、この同意は「労働者ごとに、かつ、決議の有効期間ごとに得られるものであること」とされていました。
 専門型についての詳細はまだこれからですが、これに準じて考えると、専門型の同意も労使協定の有効期間ごとに得るように定められる可能性が高いでしょう。
 専門型の労使協定の有効期間は3年以内とすることが望ましい(平15.10.22基発1022001号)とされています。
 例えば、有効期間を3年と定めている場合、3年ごとに労働者の同意を得る必要が出てきます。

厚生労働省パンフレット「裁量労働制の導入・継続には新たな手続が必要です」

(厚生労働省パンフレット「裁量労働制の導入・継続には新たな手続が必要です」)

(3)専門業務型裁量労働制の業務の追加
 専門業務型裁量労働制の業務は限定列挙され、19業務ありました。
 この業務に「銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務」が追加されることになりました。

<厚生労働省令及び厚生労働大臣告示に定める19業務>
1.新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
2.情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるものをいう。)の分析又は設計の業務
3.新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送番組(注)の制作のための取材若しくは編集の業務
4.衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
5.放送番組(注)、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
6.広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)
7.事業運営において情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるものをいう。)を活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
8.建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
9.ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
10.有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
11.金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
12.学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
13.公認会計士の業務
14.弁護士の業務
15.建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
16.不動産鑑定士の業務
17.弁理士の業務
18.税理士の業務
19.中小企業診断士の業務
「銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務」が追加

 なお、改正の詳細について、厚生労働省は施行日までにパンフレット等で詳細を示す予定があるということですので、今後の情報に留意する必要があります。

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