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育児休業法の改正

先ずはQAを題材に確認していきましょう。

Q.育児・介護休業法が改正され、2025年10月に施行される「柔軟な働き方を実現するための措置」について、企業はどのような対応が必要でしょうか?

A.3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に対し、「柔軟な働き方を実現するための措置」を講ずることが、企業に義務付けられました。
  具体的には、5つの措置の中から、企業が2つ以上の措置を選択し、制度化する必要があります。


1.育児介護休業法の改正の背景

 本年6月に厚生労働省が発表した一人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は1.15で前年の1.20より低下し、過去最低を更新しています。

 このように日本の少子化・人口減少は急速に進んでいますが、この状況に歯止めをかけなければ、日本の経済・社会システムを維持することは難しく、若年人口が急激に減少する2030年代に入るまでが、この状況を反転できるかどうかの重要な分岐点であり、ラストチャンスと言われています。

 また、育児休業取得率は、2024年の調査では、女性が80.2%、男性が17.13%、短時間勤務制度の利用率は、正社員の女性が51.2%、正社員の男性が7.6%というように、男女間で両立支援制度の利用状況に差があり、また、女性に育児負担が偏りがちである現状もみられます。

 次に、育児期の働き方に関するニーズでは、正社員の女性では、子が3歳以降は短時間勤務を希望する者もいる一方で、子の年齢に応じて、フルタイムで残業しない働き方や、フルタイムで柔軟な働き方(出社や退社時間の調整、テレワークなど)を希望する割合が高くなっていきます。正社員の男性についても残業しない働き方や、柔軟な働き方に対するニーズが見られます。

 急速な少子化が進む中、社会全体で子育てを支援し、男女ともに働きながら育児を担うことができる環境の整備にむけて、育児介護休業法が改正されました。改正育児介護休業法は多岐に亘り、2025年4月施行分と10月施行分がありますが、ここでは10月施行の「柔軟な働き方を実現するための措置」のポイントを解説します。

2.柔軟な働き方を実現するための措置について

 子の年齢に応じて、時差出勤やテレワーク等の柔軟な働き方を活用してフルタイムで働くニーズが増していることから、労働者が柔軟な働き方をしながらフルタイムで働ける措置を選ぶことができるように、新たな措置が創設されました。

 具体的には、事業主は、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に対して、職場のニーズを把握した上で、次の5つの中から2つ以上の措置を選択して講じなければなりません。労働者は、事業主が選択した2つの措置の中から1つを選択できます。

①始業時刻等の変更フルタイムでの柔軟な働き方
②テレワーク等
③保育施設の設置運営その他これに準ずる便宜の供与
④養育両立支援休暇
⑤短時間勤務制度(育児のための所定労働時間の短縮措置)

 事業主は、措置を選択し、講じようとするときは、過半数労働組合又は過半数代表者(過半数労働組合が無いとき)の意見を聞かなければなりません。

3.柔軟な働き方を実現するための措置の内容

①始業時刻等の変更
 ❶フレックスタイム制又は❷始業・終業時刻の繰上げ・繰下げのうち、❶か❷のいずれか一つを選択することができます。所定労働時間を短縮しないものとし、フレックスタイム制であれば、総労働時間を短縮しないものとなります。
 始業・終業時刻の繰上げ・繰下げの時間の範囲について一律の制限はありませんが、保育所等への送迎の便宜等を考慮して通常の始業・終業の時刻を繰り上げ又は繰り下げる制度とすることになります。保育所等への送迎の便宜等を考慮したものであれば、必ずしも何時間といった単位で設定する必要はないと考えます。

②テレワーク等
 テレワークについては、頻度等に関する基準を設けることとされており、週5日勤務の労働者の場合は月10日以上にする必要があります。週5日以外の従業員については、「週5日勤務の労働者の場合は月10日以上」を基準として、1月につき週所定労働日数又は週平均所定労働日数に応じた日数以上の日数となります。
 テレワークにより通勤時間が削減されることにより、所定労働時間を短縮せず勤務が可能になると想定されるため、所定労働時間を短縮しない措置であることが必要です。

③保育施設の設置運営その他これに準ずる便宜の供与
 保育施設の設置運営の他、ベビーシッター派遣会社と事業主が契約、費用を補助し、労働者が直接当該会社に派遣の依頼する方法があげられます。
 また、福利厚生サービスを提供する企業と契約し、年会費を支払い、カフェテリアプラン(*)の一環として、社員が当該企業の提携するベビーシッターのサービス等の福利厚生サービスを選択・利用できる制度も可能です。

④育両立支援休暇
 養育両立支援休暇は、法定休暇(子の看護休暇や年次有給休暇等)とは別に付与する制度です。子の人数にかかわらず年間10日、時間単位で取得できるようにし、始業時刻または終業時刻と連続するものが原則ですが、中抜けを認めても構いません。また、養育両立支援休暇は無給で構いません。

⑤短時間勤務制度
 原則1日6時間とする措置は必ず設けることとされています。その他の勤務時間も併せて設けることが望ましいとされています

4.柔軟な働き方を実現するための措置の個別周知・意向確認

 3歳に満たない子を養育する労働者に対して、子が3歳になるまでの適切な時期に、柔軟な働き方を実現するための措置として、上記で選択した制度に関する以下の周知事項と制度利用の意向の確認を、個別に行わなければなりません。

周知時期 労働者の子が3歳の誕生日の1か月前までの1年間
(1歳11か月に達する日の翌々日から2歳11か月に達する日の翌日まで)
周知事項 ①事業主が選択した対象措置(2つ以上)の内容
②対象措置の申出先(例:人事部など)
③所定外労働の制限(残業免除)に関する制度、時間外労働・深夜業の制限に関する制度
方法 ①面談(オンライン面談可) ②書面交付 ③FAX ④電子メール等 のいずれか
              ※③、④は労働者が希望した場合に限る

(厚生労働省パンフレット「育児・介護休業法 令和6年(2024年)改正内容の解説」参考)

5.実務上の留意点

 上記の改正は、3歳以降から小学校就学前の子の育児をしている労働者について、事業主に柔軟な働き方の措置を講ずる義務を新たに課すもので、10月までに制度を整備する必要があります。
 各企業の働き方やニーズも踏まえて、どの制度を導入するのか、検討する必要があります。

 すでに、短時間勤務制度が小学校就学前や小学3年生まで使える制度になっている企業もあります。
 このような企業では、短時間勤務制度を柔軟な働き方実現措置の一つとすること多いようです。

 一方、人手不足や企業規模等の事情から、そこまでの整備が進んでいない企業も多くあります。
 また、現状では、短時間勤務を請求するのは女性に偏る傾向にあるため、小学校就学まで短時間勤務制度を延長したとしても、その制度を利用するのは女性に偏り、キャリアへの影響が益々大きくなる可能性もあります。各制度の長所・短所を踏まえて、十分な検討が必要でしょう。

 この改正を機にカフェテリアプラン(*)を検討する企業もあります。カフェテリアプラン(*)であれば、育児をする従業員だけに限定されずに福利厚生の充実を図ることができ、採用戦略の一つにもなり得ます。
 事務系職種では、始業・終業時刻の繰上げ・繰下げやテレワーク、テレワークが難しい職種であれば養育両立支援休暇を導入するなど、業種、働き方、各職場の事情等も踏まえて、導入する制度を検討してください。

*カフェテリアプランとは…企業が福利厚生メニューを設定し、従業員が付与されたポイントを使って、必要なサービスを選べる「選択型」の福利厚生制度。

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