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「働き方改革として注目されるテレワーク」


1.柔軟な働き方の一つである在宅勤務の目的と現状

 テレワークは、多様な働き方を認めることで採用戦略や人材確保策になることから関心が高まっており、実際に導入する企業が出てきています。
 折しも、9月に首都圏を直撃した台風で、事前に無理な出勤を控えるよう注意喚起し、テレワークに切り替えて対応した企業は、日常業務が滞ることなく社員の満足度も高いことから、ニュースやネットでも取り上げられ高い評価を得ました。また、当事務所でも子育て中のスタッフに在宅勤務を取り入れていますが、これまでは家庭の事情で休んでいた場合でも、導入後は、在宅勤務で業務を進めることができ、スタッフ側も通勤時間を有効に使えるなど、在宅勤務のメリットを実感しています。今後も東京オリンピックの混雑緩和対策などのトピックスをきっかけによりさらにテレワークが広がる可能性があります。

テレワークの代表的な形態

分類形態特徴・メリット
在宅勤務自宅で業務に従事すること通勤時間が不要になることから、通勤に要する時間を有効活用できる。例えば、育児休業明けの労働者が保育所の近くで働くことが可能となるなど、仕事と家庭生活との両立しやすくなる。
サテライトオフィス勤務自宅の近くや通勤途中の場所等に設けられたサテライトオフィスで勤務すること通勤時間を短縮しつつ、在宅勤務やモバイル勤務以上に作業環境の整った場所での就労が可能となる。
モバイル勤務ノートパソコン、携帯電話等を活用して臨機応変に選択した場所で業務に従事すること労働者が自由に働く場所を選択できる、外勤における移動時間を利用できる等、働く場所を柔軟に運用することで、業務の効率化を図ることが可能となる。

(「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(厚生労働省)を参考に作成
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/3003011.pdf )

2.労働時間制度

 時差出勤制度は、1日の労働時間を変えずに、始業時刻と終業時刻を変更する働き方です。業務の都合や労働者個人の都合に合わせて柔軟に対応することができます。
 具体的には、始業時刻や終業時刻の繰上げ・繰下げ等の労働時間の変更条項を就業規則に定めます。この条文に従って、通常の始業時刻より早く出勤した場合は早出した時間分と同じ時間を繰上げて早帰りする、反対に遅く出勤した場合は、同じ時間を繰り下げて遅く退勤するという制度です。例えば、通常の始業時刻が9時、終業時刻が18時の会社で1時間繰り上げる場合は、始業時刻は8時、終業時刻は17時になります。総労働時間は8時間で変わりません。
 早出した時間分と同じ時間を繰上げて早帰りすれば、通常の時間勤務した場合と同額の賃金を支払うだけで、原則として割増手当は発生しません。しかし、深夜時間帯に勤務したり、1日8時間を超えるなど法定労働時間を超える場合は深夜割増手当や時間外割増手当を支払う必要があります。
 制度導入にあたり、就業規則への規定は必要ですが、労働基準法の規制は特になされていないため、導入や運用のハードルが低く、近年注目を集めている制度です。

3.時差出勤制度の設計、規定例

 テレワークを行う際の労働時間制度として、次のような制度があげられます。
 ➊通常の労働時間制度(フレックスタイム制を含む)
 ❷事業場外みなし労働時間制度
 ❸裁量労働制

 自宅等での勤務であっても、仕事に集中できる環境の場合は、仕事とプライベートを切り分けることができますので、➊により、しっかりと労働時間管理をすることが有効です。労働者としてはオンとオフを切り分けられますし、オフィス勤務の労働者からもオンの時間に遠慮なく連絡がとれるなど、コミュニケーションもとりやすいでしょう。
 ❷は「使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難なとき」という要件に該当する必要があります。育児や介護等により、仕事とプライベートを切り分けるのが困難な場合は、❷を適用し得る可能性はありますが、最近の事業場外みなし労働時間制度の裁判では適用が否定されるケースが多いため、注意が必要です。
 ❸の場合、業務時間配分や仕事の進め方について、労働者の裁量にゆだねられますので、労働者が自分のペースで業務に集中しやすいテレワークという環境は適していると考えます。しかし、対象業務が限定的ですので、適用が限られてきます。
 実務上は、通常の労働時間管理をしている企業が多く、次いでフレックスタイム制がよく使われています。❷と❸については、適用するケースは少ないという感覚です。

 以下、それぞれのポイントを確認していきます。

1.通常の労働時間制度
(1)通常の労働時間制度(フレックスタイム制を含む)について
 就業規則に始業・終業時刻を定め、その時間勤務する制度です。また、時差出勤やフレックスタイム制を適用すれば、育児や介護などのプライベートと仕事との調整を図って柔軟に働きやすくなります。

(2)テレワークの場合に生じやすい点
 ①いわゆる中抜け時間
 テレワークにおいては、労働者が一定程度、業務から離れる可能性があります。そのような時間について、使用者が業務の指示をしないこととし、労働者が労働から離れ、自由に利用することが保障されている場合には、その開始と終了の時間を報告させる等により、休憩時間として扱うことが可能です(雇用型テレワークガイドライン2(2)(ア)イ(ⅱ)①)。
中抜けがある場合はフレックスタイム制を適用していると、1日についての労働時間の長短にとらわれず他の日での調整が可能になるため、対応しやすいと言えます。
フレックスタイム制でない場合は、始業時刻を繰り上げる又は終業時刻を繰り下げる、又はその時間を休憩時間ではなく時間単位の年次有給休暇として取り扱うことなどが考えられます。あらかじめ取扱いについては取り決めをしておき、それに沿った対応をするのが良いでしょう。時間単位の年次有給休暇を与える場合には、労使協定が必要です。

 ②通勤時間や出張の移動時間中のテレワーク
 テレワークの性質上、通勤時間や出張の移動時間に業務を行うことが可能です。これらの時間について、使用者の明示又は黙示の指揮命令下で行われるものについては労働時間に該当するとされています(雇用型テレワークガイドライン2(2)(ア)イ(ⅱ)②)。

 ③勤務時間の一部でテレワークを行う際の移動時間
 午前中だけ自宅等で勤務したのち、午後からオフィスに出勤するなど、勤務時間の一部をテレワークすることがあります。
 こうした場合の就業場所間の移動時間が労働時間に該当するかについては、使用者の指揮命令下に置かれている時間であるか否かにより、個別具体的に判断されることになります(雇用型テレワークガイドライン2(2)(ア)イ(ⅱ)③)。
 具体的に同ガイドラインは次のように述べています。

使用者が移動することを労働者に命ずることなく、単に労働者自らの都合により就業場所間を移動し、その自由利用が保障されているような時間については、休憩時間として取り扱うことが考えられる。ただし、その場合であっても、使用者の指示を受けてモバイル勤務等に従事した場合には、その時間は労働時間に該当する。
一方で、使用者が労働者に業務に従事するために必要な就業場所間の移動を命じており、その間の自由利用が保障されていない場合の移動時間は労働時間と考えられる。例えば、テレワーク中の労働者に対して、使用者が具体的な業務のために急きょ至急の出社を求めたような場合は、当該移動時間は労働時間にあたる。

 ④中抜け時間や移動時間の管理、取り決め
 中抜け時間や移動時間は、パソコンのログオフ、労働時間管理システムで記録されるようにしておく、自己申告させるなどして、その時間を把握する必要があります。中抜け時間や部分的テレワークの移動時間の取扱いについては、就業規則等に定めておくと良いでしょう。一方、中抜け時間は必ず認めなければならないものではありませんので、その場合は所定の始業・終業時刻を守って働かせることになります。

2.事業場外みなし労働時間制
 テレワークにより、労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難なときは、事業場外労働のみなし労働時間制が適用されます。
 テレワークにおける、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難であるというためには、以下の要件をいずれも満たす必要があります(雇用型テレワークガイドライン2(2)(イ))。
 ①情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
 ②随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと

 ①は、情報通信機器を通じた使用者の指示に即応する義務がない状態であることを指します。例えば、回線が接続されているだけで、労働者が自由に情報通信機器から離れることや通信可能な状態を切断することが認められている場合、会社支給の携帯電話等を所持していても、労働者の即応の義務が課されていないことが明らかである場合等(すぐに応じなくとも指示違反や任務懈怠とされないような場合)は、「使用者の指示に即応する義務がない」場合に当たります。
 なお、この場合の「情報通信機器」とは、使用者支給、または労働者所有のもの等を問わず、労働者が使用者と通信するために使用するパソコン、スマートフォンや携帯電話端末等を指します。

 ②の「具体的指示」には、例えば、当該業務の基本的事項(目的、目標、期限等)を指示することや、これら基本的事項について変更を指示することは含まれません。
事業場外みなし労働時間制が適用されると、実際の労働時間の多寡にかかわらず、原則として就業規則に定める所定労働時間を労働したものとみなされます(労基法第38条の2第1項)。ただし、事業場外の業務を遂行するために、通常所定労働時間を超えて労働することが必要である場合には、その業務の遂行に通常必要とされる時間(以下「通常必要時間」という)労働したものとみなされます。また、過半数労働組合(なければ過半数代表者)と労使協定を締結するときは、その協定で定める時間を通常必要時間とすることになります(労基法38条の2第2項、第3項)。

3.裁量労働制
 裁量労働制とは、業務時間配分や仕事の進め方について、使用者が具体的な指示をするのではなく、労働者の裁量にゆだねた場合に、労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度です。専門業務型(研究開発、システムエンジニアやデザイナー等の専門職)と企画業務型(事業運営の企画、立案、調査及び分析の業務)の2種類があります。専門業務型は、労使協定により、企画業務型は労使委員会の設置、決議とその届出、対象労働者の同意によって、導入することができます。

4.労働時間の適正な把握
 使用者に労働時間を適正に把握する義務があることは、社内勤務でもテレワークでも変わりません。使用者は「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定。以下「労働時間把握ガイドライン」という)に基づき、適切に労働時間管理を行わなければなりません。
 同ガイドラインでは、労働時間の記録の原則的な方法として、タイムカードやパソコンの使用時間の記録等、客観的な記録によることをあげています。また、やむを得ず自己申告制による場合は、自己申告により把握した時間が実際の労働時間(パソコンの使用時間の記録等)と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をするなど、一定の措置を講ずることとしています。
 実務的には、社外でも使用できる労働時間管理ツールにて労働管理を行い、これに基づき管理職が法令や会社の規則等に沿った労働が行われているか日々確認し、問題があれば指導するといった運用が望まれます。難しい場合は、自己申告制を用い、労働時間把握ガイドラインに沿った対応することになります。また、業務を始める際に上司等にメールで開始報告するなど、タイムリーに勤務状況が分かるようにしておけば、当該労働者がテレワークで勤務時間中であると社内でも分かりますので、連絡やコミュニケーションをとりやすくなります。
 一方、事業場外みなし労働時間制(ただし、みなし労働時間制が適用される時に限る)や裁量労働制が適用される労働者の場合、労働時間適正把握ガイドラインの適用対象が外されています。しかし、健康確保を図る必要があることから、勤務状況を把握し、適正な労働時間管理を行う責務があるとされています。また、労働安全衛生法第66条の8の3は、労働基準法の労働時間の把握と異なり、「労働時間の状況の把握」が、事業場外みなし労働時間制や裁量労働制が適用される労働者についても義務付けられています。「労働時間の状況の把握」とは、労働者の健康確保措置を適切に実施する観点から、労働者がいかなる時間帯にどの程度の時間、労務を提供し得る状態にあったかを把握するものであるとされています(解釈通達・基発1228第16号第2答8)。

5.長時間労働対策
 勤務と私生活との切り分けが難しいテレワークの場合、時間外や深夜労働が増えるなど、働き過ぎとなることも想定されます。このような対策の一つとして、時間外、深夜または休日(以下時間外等)労働は原則禁止とし、必要な場合は事前に許可制を得るという事前許可制にしておくことも一つの方法です。
 また、役職者等から時間外等にメールを送付することの自粛を命じたり、深夜や休日には、社内システムに外部のパソコン等からアクセスできないように設定しておくことも有効です。
 さらに、テレワークにより長時間労働が生じるおそれのある労働者や休日・深夜労働を行う労働者に対して、注意喚起を行うこともあります。例えば、管理者が労働時間の記録を踏まえて行う方法や、労働時間管理システムのアラートで警告する方法もあります。

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