コーヒーブレイクCoffee Break

「管理監督者と時間外労働」

Q.当社では、コロナ対策としてテレワークを導入し、現在に至るまでテレワークを継続しています。コロナうつなどの言葉が聞かれますが、どのような対策が必要でしょうか。

A.テレワークで感じる不安や孤独感は、職場の支援・協力が欠如すれば、より増長されます。そのことを念頭にコミュニケーションを意識してとるように促し、会社はそのための対策を講ずるべきと言えます。具体的には解説をご確認下さい。


第1 コロナうつとは

 新型コロナウイルスの流行により、外出自粛や新しい生活様式を強いられているストレスから心に不調をきたすことが懸念されています。 厚生労働省は9月に、新型コロナウイルス流行の影響でうつ症状などのメンタル不調を訴える人が増えていることを受けて、インターネット上での調査を行うと発表しました(共同通信2020年9月10日記事)。 厚労省によると、「感染が不安」「コロナウイルス報道ばかりで気がめいる」といった相談が精神保健福祉センターに寄せられ、2~7月のコロナ関係の相談は全国で約1万6千件あったそうです。

 新しい生活様式の一つにテレワークがありますが、テレワーク中にうつ病を発症したという話が聞かれるようになりました。
 例えば、テレワーク勤務をしている社員の一人と連絡がとれない日が出てくるようになり、よく確認してみると、テレワーク中にうつ病が再発してしまったといったケースです。
 このように、これまで心の問題を抱えていた人や過去にメンタル不調に陥ったことのある人が、コロナなどの影響で最後の一線を超えてしまったり、再発するということが想定されます。

 テレワークは、満員電車に乗るストレスが減る、時間を有効に使えるなどのメリットがありうまく順応している人がいる一方で、孤独感、コミュニケーションのしづらさ、業務遂行の難しさを感じる人もいます。 人間は変化に弱い面を持っていますから、テレワークという環境の変化に対応できるよう、会社もバックアップする必要があります。

 本稿では、メンタルヘルスの予防を中心に検討します。

第2 精神障害の労災認定基準

 ここで少し、どのように精神障害が労災認定されるかを確認したいと思います。精神障害の労災認定は、「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(平成23.12.26基発1226第1号。以下「認定基準」という)に基づき、次の要件から判断されます。

精神障害の労災認定要件
①認定基準の対象となる精神障害を発病していること
②発病前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷が認められること
③業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと


 ③は業務以外のストレスのことですが、コロナに関して例をあげると、自分や家族が罹患してしまわないか感染の直接の不安や自粛による生活の制限、テレビ報道により引き起こされる不安などがあげられます。
 ②は業務上のストレスですが、例えばテレワークやWeb形式での仕事が増え、慣れない業務対応のため、残業時間が増えることなどがあげられます。
 テレワーク中にうつ病にかかったことが、必ずしも労災につながるわけではありませんが、企業は認定基準からどのような内容が業務上のストレスになるのか注意点として踏まえた上で、テレワーク中の従業員の健康対策を考える必要があります。
 業務上のストレスの内容については、厚生労働省のHPなどで認定基準をご確認下さい。

第3 メンタルヘルスの予防策

 メンタルヘルスの予防策について、次の3つのストレスを軽減するという観点から検討してみます。


①物理的ストレスの軽減

 物理的な労働環境の改善を図るという観点です。テレワークの場合、職場と比べて労働環境が整っていないことがあります。
 例えば、座卓での作業や小さいノートパソコンでの作業は体や目に負担がかかります。デスクや事務椅子、サブディスプレイを購入する費用を補助して環境を整えてもらうといったことが考えられます。
 そのため、費用補助の一時金やテレワーク手当を支給する企業もあります。
 また、社内で「テレワークガイドライン」を策定し、推奨される作業環境を紹介するのも一つの方法です。
 例えば、照明の明るさ、室温、デスクの高さや事務椅子の形状など、社員がイメージできるような図を載せるのもよいでしょう。その際、厚生労働省の「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(基発第0405001号平成14年4月5日)などが参考になるでしょう。

②生理的ストレスの軽減

 疲労、不眠などがあげられます。テレワークでは、仕事と生活の線引きが曖昧となってしまう人もいます。特にフレックスタイム制や裁量労働制を適用している場合、仕事の開始・終了時刻がずれこみ、生活リズムを崩し不眠に陥っているケースも想定されます。少なくとも、深夜労働や休日労働は事前許可制にすべきでしょう。
 日々の労働時間をチェックし、ルーズな勤務状況になっている場合は指摘し、改善されない場合は通常の労働時間制度を適用して、所定の始業・終業時刻で仕事をするよう変更が必要になるかもしれません。
 また、テレワークでも使える労働時間管理システムの整備や会社に始業・終業時刻を報告させるなどして労働時間を把握する必要があります。その他、テレワークであっても、決まった時間にWeb朝礼を行う、会社が健康相談窓口を設置している場合はその再周知を行うなどの対策もあります。
 また、ストレスチェックを導入している企業では、テレワーク導入前後の違いなどを分析、改善につなげる方法もあります。

③心理的・社会的ストレスの軽減

 不安、焦りや孤独感、人間関係のトラブルなどがあげられます。
 テレワークの大きな問題として、コミュニケーションの難しさがありますが、相手が直接見えない、気軽に話しかけられない、メールなどの無機質なやり取りが多いことから、不安に陥りがちです。
 この改善としては、コミュニケーションの充実、周囲のサポートなどがあるでしょう。
 具体的には、これまで以上に意識してコミュニケーションをとることがあげられます。
 ②でもあげたWeb朝礼で、業務の予定・結果報告、業務の負荷状況や進捗状況など、具体的な情報について共有するようにし、相談しやすい環境を作ります。併せて夕礼を行ってもよいでしょう。また、ちょっとしたことが聞けない、雑談ができないといった声もありますが、チャットで改善したというケースも聞かれます。若手社員は、管理職だけでなく、ブラザー・シスター制度やメンター制度を活用して、先輩社員のサポートも受けられるようにしておくとよいでしょう。
 その他、メールなどで指示する場合は、どうしても事務的、無機質になりがちです。「リモートハラスメント(リモハラ)」や「テレワークハラスメント(テレハラ)」などといった言葉もでてきています。
 殊更に委縮する必要はありませんが、指示を出す側は、この文章を読んだ相手がどう思うか想像して指示し、必要に応じて電話などで丁寧に伝える、顔の見えるWeb会議でフォローするなど手段を使い分けるといよいでしょう。


第4 まとめ

 認定基準では、労災認定の総合評価を強める要素として「職場の支援・協力等(問題への対処等を含む)の欠如。具体的には、仕事のやり方の見直し改善、応援体制の確立、責任の分散等、支援・協力がなされていない」ことがあげられています。
 テレワークで感じる不安や孤独感は、職場の支援・協力が欠如すれば、より増長されます。そのことを念頭にコミュニケーションを意識してとるように促し、会社はそのための対策を講ずるべきと言えます。

お問い合わせ