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連続勤務の上限規制等

労働基準法等の改正に向けて、2024年1月より開催されてきた労働基準関係法制研究会が報告書をとりまとめ、2025年1月に公表されました。
この報告書には、労働基準法における「労働者」、「事業」、「労使コミュニケーションの在り方」について検討したうえで、労働時間法制の具体的課題とその見直しの方向性について記載されています。
今回は、報告書において言及されている「連続勤務の上限規制」、「法定休日の明確化義務」、「勤務間インターバルの義務化」について詳しく解説します。


   【目次】
   1.連続勤務の上限規制
   (1)背景・趣旨
   (2)想定されるルール
   (3)企業が直面する課題
   2.法定休日の明確化義務
   (1)背景・趣旨
   (2)想定されるルール
   (3)実務上の留意点
   3.勤務間インターバルの義務化
   (1)現状と検討内容
   (2)なぜ「11時間」なのか
   (3)実務上の運用案
   (4)運用上の留意点
   4.おわりに


1.連続勤務の上限規制

(1)背景・趣旨

労働基準法では、休日について「毎週少なくとも1回の休日を付与すること」を原則としつつ、 4週間を通じ4日以上の休日を与える変形休日制「4週4休」を可能としています。
しかしながら、この「4週4休」の運用を行うと、理論上、長期間の連続勤務が実現できるため、 精神疾患の労災認定基準(連続2週間以上の勤務が心理的負荷の要因)等を踏まえ、上限規制が求められています。

(2)想定されるルール

「13日を超える連続勤務をさせてはならない」=「14日以上の連続勤務を禁止」が想定されています。
ただし、業種や職種によってやむを得ない事情がある場合は、例外措置や代替措置を設けて対応を労使の合意で可能とするように設定される見込みです。

(3)企業が直面する課題

長期連勤を可能としたシフトの組み直しが必要となるでしょう。
特に、小売業・サービス業等の長時間シフトを前提としている企業は影響が大きいといえます。
連続勤務の規制を考慮してシフトの組み方が実行できるよう、適切な勤怠管理ソフトを用いることがより肝要になってくると考えられます。

また、就業規則や36協定や変形労働時間制の見直しが必要となるでしょう。 就業規則において、例外規定を設定する場合は、「対象業務・対象期間・代替休暇の付与方法」を明文化し、労使協定で定めることを実務上で求められるかもしれません。

2.法定休日の明確化義務

(1)背景・趣旨

前述した通り、法定休日について、現行の労働基準法上は1週に1休以上を前提としており、特例として4週に4休の付与も認められています。

この場合の1週に1休または4週に4休の具体的な特定について、従来の行政通達においては「法律上では必ずしも休日の特定までは要しない」としつつも、 具体的に一定の日を休日として規定をするよう指導するものとされています。

そもそも法定休日とは、労働者の健康の確保ならびに生活リズムの一定化、人間らしい生活を守るといった目的として制度が規定されていることから、 法定休日を特定することが法律上の本旨に則った制度に繋がります。

(2)想定されるルール

労働基準法第35条の順守すべき内容について、「1週に1休の付与」から「1週に1休の特定した法定休日の確保」への変更が想定されます。

また、行政通達等で、使用者が法定休日を特定する際の対象者やその手順が明確化される可能性があります。

(3)実務上の留意点

現状具体的に法定休日を特定しておらず、事後的に法定休日を特定している企業においては、特定の手順を明確化した上で就業規則等の改訂が必要になると考えられます。

また、シフト制の従業員やパート従業員などで、法定休日の曜日が特定されていない場合においても、事前に法定休日を特定することが必須となる可能性もあります。
その場合には、勤怠管理においてシフト作成時に法定休日の特定を並行することも考えられますので、勤怠システムの導入などの対応が必要になるかもしれません。

また、法定休日と法定外の休日(いわゆる所定休日)の線引きが明確になることから、給与計算時においても適切な割増賃金率での支払い、 また振休や代休の線引きを行う必要性が出てきます。

3.勤務間インターバルの義務化

(1)現状と検討内容

勤務間インターバル制度については、2019年の働き方改革の際に法改正が行われ、事業主の努力義務となりました。
ただ、現行法においてはインターバルの時間数や導入にあたっての留意事項は法令上示されていません。

制度の実態としては、令和6年時点で導入企業が約6%、導入検討の企業においても約15%にとどまっており、導入促進および周知が課題となっており、 義務化をもとに法規制の強化について検討されている段階です。

(2)なぜ「11時間」なのか

複数の要因がありますが、主要なものは下記の2要因が挙げられます。

①国際情勢に合わせた変化
諸外国では勤務間インターバル制度が推し進められており、特にEU諸国では勤務間インターバル制度が義務化されています。 その際、EUの指令においても11時間以上の勤務間インターバルを設けることとされており、その流れに沿ったものと考えられます。
②健康科学の観点
科学的知見から、睡眠時間の確保や生活リズムの安定をもとにすると、11時間のインターバル確保が望ましいとされています。

(3)実務上の運用案

現行の検討案に則って考えますと、勤務間インターバルの運用について、勤務終了から翌日の始業時間までを11時間以上空ける必要があるため、 勤務終了時間(残業時間)に一定の規制を設けるか、始業時刻の後ろ倒しを行うことが運用案の1つとなります。
また、今後の法整備の展開によっては、勤務間インターバル時間が確保できなかった場合の代替措置として、 代休の取得を行う場合や健康・福祉確保措置の一環として面接指導を行うなどの代替措置を制度化する必要があります。

(4)現状での留意点

現行の検討段階では、勤務間インターバル時間が確保できない場合の代替措置、制度導入までの経過措置、制度除外の職種等の設定等詳細部分が決まっていない部分があります。
今後発表される省令レベルでの規定化に対する対応を要します。

また、現行でも勤務間インターバル制度導入に関する助成金があり、法改正に伴い助成金の内容が大きく変更される可能性があります。
その点もご留意ください。

4.おわりに

労働時間法制の課題および見直しについては、2019年の働き方改革以降の長時間労働是正をさらに推し進めるものとなります。 また、健康やワーク・ライフ・バランスの確保策として期待されている部分もあります。 ただし、実務面としては義務化の部分が多く、現行の各規則や制度運用の大幅な見直しが必要であるとともに、 勤怠システムの導入・活用による労働時間管理の適正化など、運用面の課題に対する早期の取り組みを行い、 ソフトランディングを行う必要があります。 今後詳細の発表も行われますので、皆様におかれましては、引き続き情報収集に臨んでいただき、本コラムがその切り口の一端になりますと幸いです。

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