1.通勤災害とは
通勤災害とは、労働者が通勤により被った負傷、疾病、障害又は死亡を言います。
この場合の「通勤」とは、就業に関し、原則として住居と就業の場所との間の往復を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くとされています。
また、移動の経路を逸脱し、又は移動を中断した場合には、逸脱又は中断の間及びその後の移動は「通勤」とはなりません。ただし、逸脱又は中断が日常生活上必要な行為であって、厚生労働省令で定めるやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、逸脱又は中断の間を除き「通勤」となります。
このように、通勤災害とされるためには、その前提として、労働者の就業に関する移動が労災保険法における通勤の要件を満たしている必要があります。
2.通勤災害の疾病
通勤災害のうち、負傷の場合は、労働提供のための通勤途上で発生したものとして業務との関連性が認められることになりますが、疾病については、たまたま通勤途上で発症したとしても、業務との関連性は分かりにくいものとなります。
通勤による疾病の範囲は、厚生労働省令で定めるものに限るとされており、同省令では「通勤による負傷に起因する疾病」「その他通勤に起因することの明らかな疾病」と定められていますが、通勤と疾病との因果関係を証明するのは難しく、具体的な範囲は業務上の疾病のように列挙されていません。
例えば、寝坊のため急いで自転車で約500メートル先の駅へ向かった後、駅構内の階段で倒れているのを発見され急性心不全により死亡したケースについて「『通勤による疾病』とは、通勤による負傷又は通勤に関連ある諸種の状態(突発的又は異常なできごと等)が原因となって発病したことが医学的に明らかに認められるものをいうが、
本件労働者の通勤途中に発生した急性心不全による死亡については、特に発病の原因となるような通勤による負傷又は通勤に関連する突発的なできごと等が認められないことから『通勤に通常伴う危険が具体化したもの』とは認められない」(昭和50.6.9基収4039号)としています。
一方、会社からの帰途上、歩道橋を下っていたところ、足を滑らせ転倒し、頭部を強打し「外傷性くも膜下出血」等を診断されたケースで、通勤災害として療養給付及び休業給付が認められた例はあります。しかし、外傷性ではないくも膜下出血などの脳卒中では、通勤途上で倒れたとしても通勤災害には該当しないと考えられます。
従って、ご質問のような相談があった場合、まず外傷性のものであるかどうかが確認ポイントとなってきます。
3.業務災害
労働者災害補償保険法は、通勤災害と業務災害を区別しています。
業務災害とは、労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にあることに通常伴う危険が現実化したために起きた災害をいいます。業務災害においては、「業務上の疾病」が具体的に定められており、脳・心臓疾患については、仕事が過重であるなど一定の要件に該当する場合には、業務災害と認められます。
従って、通勤途中に脳卒中で倒れた場合であっても、業務災害に該当するかどうか、すなわち発症前に過重労働があったかを確認する必要があります。
また、業務時間中に社内で脳卒中により倒れた場合も、社内で倒れたというだけでは、外傷性のものを除いては業務災害とはなりません。
しかし、過重労働をしていた場合は、業務時間内外問わず、業務災害に該当する可能性があります。
次回、「脳卒中と業務災害② 労災認定基準」にて、脳・心臓疾患が労災に該当するかどうか、脳・心臓疾患の労災認定」(厚生労働省パンフレット)を参考にその概要をご説明します。