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「副業・兼業の労働時間通算等について」②

前回のコラム『「副業・兼業の労働時間通算等について」①』では基本的な考え方、労働時間・36協定に関する通算についてをお伝えいたしました。 今回は所定労働時間の通算の原則的な考え方や、簡便な労働時間管理の方法についてお伝えいたします。


(1)所定労働時間の通算の原則的な考え方

 令和2年9月1日に改正された「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、a「副業・兼業の開始前(所定労働時間の通算)」、b「副業・兼業の開始後(所定外労働時間の通算)」に分けて示しています。所定労働時間の通算は、労働契約締結の先後の順となっており、所定労働時間と所定外労働時間で通算の順序に関する考え方が異なる点に注意が必要です。

a「副業・兼業の開始前(所定労働時間の通算)」
 副業・兼業開始前の所定労働時間の通算については、「自らの事業場における所定労働時間」と「他の使用者の事業場における所定労働時間」とを通算して、「法定労働時間を超える部分」がある場合は、「時間的に後から労働契約を締結した使用者」における当該超える部分が時間外労働となり、当該使用者における36協定で定めるところによって行うこととなります。

(「副業・兼業の促進に関するガイドラインわかりやすい解説」(厚生労働省))

b「副業・兼業の開始後(所定外労働時間の通算)」
 副業・兼業開始後の所定外労働時間の通算については、「自らの事業場における所定外労働時間」と「他の使用者の事業場における所定外労働時間」とを、「当該所定外労働が行われる順に通算」して、「法定労働時間を超える部分」がある場合は、当該超える部分が時間外労働となります。

(「副業・兼業の促進に関するガイドラインわかりやすい解説」(厚生労働省))

通算して時間外労働となる時間について、各々の使用者は次の対応が必要になります。

1) 自らの事業場において労働させる時間については、自らの事業場における36協定の延長時間の範囲内とする必要がある。
2) 各々の使用者は、通算して時間外労働となる時間(他の使用者の事業場における労働時間を含む)によって、時間外労働と休日労働の合計で単月100時間未満、複数月平均80時間以内の要件を遵守するよう、1ヶ月単位で労働時間を通算管理する必要がある。

c 所定労働時間の把握
 他の使用者の事業場における実労働時間は、労働者からの申告等により把握する必要がありますが、把握の方法としては、必ずしも日々把握する必要はなく、労基法を遵守するために必要な頻度で把握すれば足りるとして、次の例をあげています。

一定の日数分をまとめて申告等させる
(例:一週間分を週末に申告する等)
所定労働時間どおり労働した場合には申告等は求めず、実労働時間が所定労働時間どおりではなかった場合のみ申告等させる
(例:所定外労働があった場合等)
時間外労働の上限規制の水準に近づいてきた場合に申告等させる

(2)簡便な労働時間管理の方法

 上記の方法では、労働時間の申告等や通算管理において、労使双方に手続上の負担が重くなることが想定されます。このため、改正ガイドラインでは、簡便な労働時間管理の方法(以下「管理モデル」という)について、次のように示しています。

副業・兼業の開始前に、A社(時間的に先に労働契約を締結した者)の法定外労働時間とB社(時間的に後から契約した者)の労働時間(所定労働時間及び所定外労働時間)を合計した時間数が、単月100時間未満、複数月平均80時間以内を超えないよう、A社とB社があらかじめ労働時間の上限をそれぞれ設定する。
A社とB社は、①で設定した労働時間の上限の範囲内で労働させる。
A社は自らの事業場における法定外労働時間の労働について、B社は自らの事業場における労働時間の労働について、それぞれ自らの事業場における36協定の範囲内とし割増賃金を支払う。

 これにより、A社とB社は、それぞれあらかじめ設定した労働時間の範囲内で労働させる限り、他の使用者の実労働時間の把握を要することなく労基法を遵守することができるということになります。

(「副業・兼業の促進に関するガイドラインわかりやすい解説」(厚生労働省))

 この管理モデルが導入された場合、所定外労働がA社、B社の双方で生じた場合であっても、A社は自社の労働時間が法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えたものに対し、時間外割増賃金を支払えばよいことになります(所定外労働に対し割増を支払う規定にしている場合はそれも支払います)。一方、B社がこの管理モデルに応じる場合には、B社の労働時間の労働について上記の例では、B社が割増賃金の支払義務を負う部分が多くなります。
 厚生労働省は、この管理モデルを導入する場合に、副業・兼業を行う労働者に対する通知の例を図表1のようにあげています。この通知は、A社から労働者経由でB社に手交され、B社がこれに応じることで管理モデルによる労働時間管理が導入できるという流れになります。つまり、A社の求めに対し、「労働者」及び「B社」が管理モデルの導入に応じることが前提となります。
 実務上、この管理モデルの導入が進むかどうかは未知数です。例えば、副業希望者が高度なスキルを持っており、副業先がそれを高く買っている場合は副業先が管理モデルに応ずることがあり得ますが、副業先が割増賃金の負担を回避したい場合には応じないことが想定されます。

(図表1)

(「副業・兼業の促進に関するガイドラインわかりやすい解説」(厚生労働省))



 以上、2回にわたり社労士 深津先生による「副業・兼業の労働時間通算等」についてのコラムをお届けしました。 実際に、副業を認める場合は、改正ガイドラインを確認の上進めるようお願いいたします。
 前回のコラム『「副業・兼業の労働時間通算等について」①』もご覧ください。

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